2014年6月13日金曜日

日本の政治エリート

ラザースフェルドたちの開発した精密モデルの例をあげよう。日本の政治エリートに関する研究の一部である(詳細は拙著『日本の政治エリート』中公新書参照)。この表に示してあるのは一九二〇年(大正九年)における、三三一人の日本の政治的エリートのサンプルにおける、教育水準と政治的地位との関係である。

この表における政治的地位とは、勲一等、勲二等といった勲位、正三位というような宮中位、男爵、子爵といった爵位の三者を組み合わせた、政治的地位の尺度によって測ってある。この表が示すように両者の関係は教育水準が高ければ、政治的地位も高いという、きわめて常識的な結果が現われた。この両者の関係自体に関して特に問題はないように思われる。

しかし私はこの二変量解析をテストするのに、族籍を使用しなければならないと考えた。族籍とは戦争直後まで使用されていた華族、士族、平民の別である。旧武士階級であることを示す士族と平民との差は、戦前の日本ではことごとに人間の社会的地位に、影響を与えていたのである。それと同時に明治維新以前の公家、大名の子孫と、維新後の功労者に与えられた世襲的な爵位も重要である。これらの爵位を持つものは華族と呼ばれて、士族、平民とともに族籍の重要な一部を形成していた。この政治エリートの父親の族籍を統制変数として用いた、多変量解析の結果である。

この表のパーセンテージは、政治的地位の指数において、高い数値を獲得したエリートのパーセンテージであり、かっこ内の数字はパーセンテージの計算の基礎となった実数である。たとえば左上の数字でいえば、華族で大学以上の学歴のある者三一人のうち、政治的地位が高いと分類された者は九四パーセントということになる。そこで華族、士族、平民という三つのグループにおける、教育水準(独立変数)の政治的地位(パーセンテージで示された従屈変数)に対する影響を調べてみることにする。

するとまず華族クループでは、政治的地位の「高い」者が、大学以上では九四パーセント、大学未満では九二パーセントと、その差がニパーセントに過ぎない。つまり華族グループでは、教育水準と政治的地位との関係が、ほとんど消滅している。これは華族グループでは、政治的地位の獲得のために、高等教育が必要でなかったことを示している。