2014年7月26日土曜日

未来を展望する

経営陣は産業の未来を展望しようと競い合っている。経営陣は明日のビジネスチャンスについて、先見の明に富み、裏づけがしっかりしていて、かつ独創的な未来図をつくり出そうと競い合っている。この読みがあるからこそ、企業力を育てようと先行投資し、活動にも焦点が定まり、投資計画に一貫性が生まれ、戦略的提携や買収の決断に当たっても指針が生まれ、ご都合主義に走って横道にはずれることもなくなる。産業の未来を展望するために必要十分な投資を行わなかった経営陣はいずれも、先見の明に勝る競合他社の思うがままになっていることにやがて気づくことになる。

意識しているかどうかは別として、IBMのルー・ガースナーのチームは、九〇年代初めにアップルコンピュータのマイケルースピンドラーのチームと競っていたのであり、その彼らもヒューレットーパッカードのルイスープラットのチームと戦っていた。彼らはまた、EDSのレスーアルバーサルのチームと戦っており、その彼らは、アンダーセンーコンサルティングのジョージーシャヒーンのチームと情報技術産業の未来図を描こうと戦っていたのである。

シアーズのアーサー・マルチネスのチームは、ウォルマートのデービッドーグラスのチームと競争しており、その彼らは、Kフートのジョセフーアントニーニのチームと大量小売業の未来の読みを競い合っていた。メルクのロイーバゲロスのチームはスミスクラインービーチャムのボブーボーマンのチームと競い合っており、その彼らはグラクソのサー・ポールージロラミのチームと、これまでとはまったく違う新しいヘルスケアの未来の環境を読み、それに備えようと競い合っていた。

ペル・アトランディックのレイースミスのチームは、AT&Tのボブーアレンのチームと競争し、その彼らは、USウェストのリチャードーマコーミックのチームと、「インフォテインメント」(infortainment information =情報とentertainment =娯楽を組み合わせた造語)サービスの未来を構想し、そこから利益を得ようと戦っていた。アメリカン航空のロバートークランダルのチームは、ユナイテッド航空のスティーブンーウルフや英国航空のコリンーマーシャルと、世界で最初の真にグローバルな航空会社をつくり上げようと競い合っていた。

そしてさらにこれらのチームはみな、過激なほどに変貌を遂げた明日の産業の主導権をとろうとしつこく現行勢力に挑戦する、星の数ほどの新規参入者や新興企業と戦っていたのである。数十億ドルもの新しいビジネスチャンス、世界中の人々の生活を改善するチャンスがかかっていた。それをモノにできるかどうかで、先見の明を持った経営者の殿堂に名を連ねられるかどうかが決まるのである。

次のような経営陣にはなかなかお目にかかれない。産業の未来を展望しなければならないことを十分に自覚している経営陣。今日の知的リーダーとならなければ、明日の市場の主導権をとる戦いに勝つことはまず無理だとわかっている経営陣。この点を問い詰められると管理職は即座に、今日、成功しているからといって明日も成功するわけではないことは認める。だが、彼らの行動を見ていると、未来は多かれ少なかれ過去の繰り返しであると暗に考えているようにとれる。