2015年9月18日金曜日

経常収支黒字要因

このように、買物のための赤字と投資のための赤字とでは同じ赤字といっても意味が変わってくる。同じ国際収支の赤字といっても、経常収支赤字は対外債務の超過をもたらし、資本収支赤字の場合は一方的な対外債務増大には結びつかず、むしろ投資収益増大をつうじて経常収支黒字要因となる。だから同じ赤字でも深刻なのは経常収支赤字である。経常収支赤字は、資本収支赤字とちがって、国内の購買力が一方的に海外に流れ出していることを意味するからである。

もちろん経常収支赤字といっても、アメリカのように自国通貨ドルで対外的な借金を支払える限りでは、他の国々とちがっていきなり債務返済に困るわけではない。しかし、経常収支赤字は国民所得の一部分が海外に一方的に流出していることを意味しているという事実を変えることはできない。国内の購買力が一方的に外国に流出するということは、国内産業に回るべき「おカネ」が外国に回り、国内の有効需要がその分削減されるということである。つまりこれは国内の失業問題に直結する。だから、経常収支赤字が続くことになると、ドル問題は別としても、アメリカはその対策をとらざるをえなくなる。

実際、アメリカは資本収支の赤字を主因とする国際収支赤字である問は、ドル危機対策に追われはしたが、まだ「余裕」があった。ところが七一年に今世紀に入ってはじめて貿易収支が赤字に転落し、経常収支も赤字に転落するに及んで、余裕は消えてしまった。七一年八月のニクソンーショツク(金ドル交換停止)によって戦後の固定相場制の崩壊が始まり、一ドル三六〇円時代は終わりを告げた。

だがそれでもなお、七〇年代は七一年や七八年などを除けば、貿易収支の赤字を膨大な投資収益でカバーすることによって、経常収支は、基調としてはなんとか黒字を維持することができた。ところが、八三年以降ぱ貿易赤字が急拡大し、しかもこれをカバーすべき投資収益黒字が急減することによって、経常収支赤字が完全に定着してしまった。アメリカの債務国転落はその結果であった。