2015年8月25日火曜日

年金水準の切り下げ

また働く既婚女性が増えたことにより、夫婦共働きの世帯と、夫一人が働く世帯との間に、世帯間の年金格差が生ずると、以前から指摘されていた。厚生年金は、夫婦二人分の年金として設計されており「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という思想が制度の基本にあった。したがって妻も外で働き、厚生年金に加入すれば、妻の年金も二人分、共働き家庭は夫婦あわせて四人分の年金を受けるといわれた。しかし実際には、妻の就労は途中からの再就職やパート労働が多く、あるいは長く働いても賃金が低いため、男性と同じ水準の年金を受ける人は多くはない。

旧制度で、夫が厚生年金、妻が国民年金に任意加入している場合も、世帯の年金としては三人前とされた。こうした世帯間格差をなくすために、年金の仕組みを個人単位とする改正が行なわれた。それは年金給付費の節約にもつながるものであった。女性の年金についても、夫がサラリーマンの専業主婦は国民年金に任意加入の扱いで、独自の年金受給が保障されていないことが、国民年金発足の当初から問題とされてきた。任意加入しなければ、障害者となっても障害年金が受けられず、高齢で離婚した場合、無年金となるおそれが指摘されてきた。このような問題に、改正はどう対応したかを、次に見てゆくことにする。

厚生年金の一九八六年のモデル年金は、平均標準報酬月額二五万四〇〇〇円の場合、三二年加入で一七万三一〇〇円である。改正では同じ平均標準報酬月額の四〇年加入者の年金を、一七万六二〇〇円とほぼ同額とした。つまり一九八六年から二〇年後にでてくる四〇年加入者も、改正前の三二年加入とほぼ同じ年金水準になる。

この切り下げの方法として、老齢基礎年金の1ヵ月当たりの単価を一五年かけて二〇〇〇円からこ一五〇円に下げた。生年月日により、一歳ごとに単価が下がる仕組みで、一九四一年四月二日以後の生まれの人は、単価はすべて二一五〇円である。厚生年金の報酬比例部分の「支給乗率」も、一〇〇〇分の一〇から、一〇〇〇分の七・五へ、二〇年かけて切り下げる。これも生年月日の一年刻みで下がる仕組みである。同様に厚生年金の定額単価も、二四〇〇円から二五〇円へと下がる。

年金の改正に当たって四月一日以前に生まれた人(改正施行日に六〇歳以上)は、旧制度適用とし、その他に、さきに述べた切り下げの経過措置が適用される世代と、まったくの新制度適用の世代、つまり三つのグループが生ずることになった。経過措置に該当する人々は、厚生年金では一九二六年四月二日から一九四六年四月一日生まれまでで、この年代では前述の定額単価、支給乗率は一歳ごとに下がり、年齢の若い人ほど定額単価も支給乗率も低くなる。