2014年9月18日木曜日

労働契約成立という法律効果

この点について、図表にもとづいて説明します。まず、同図田の場合には、1年毎の契約が5年間更新されてヽ6年目の更新がなされますとヽその契約を更新した途端にその契約は、「通算5年を超える契約」をしたことになりますから、その時点で労働者には無期転換申込権が発生します。同図の①の更新によって契約された期間中であればいつでもこの申込みができます。そして、その期間中に②の申込みがなされますと、③の5年を超えた有期契約の満了日の翌日を就労開始目とする④のような無期労働契約が成立します。使用者側では、この申込みを「承諾したものとみなす」とされていますので、申込みがあった時点で③の転換日を就労の初日とする無期労働契約が成立したことになります。ただし、この申込み時点で無期契約が成立するといっても、それは民事上の契約成立であって、③の転換による就労開始日の始期が到来しないと実際の契約はスタートしません。

また、図表の②の例のように、3年間の有期労働契約を締結していた労働者が3年の期間満了後、再度3年間の有期労働契約を結んだときにも、この契約は通算「5年を超える」労働契約を締結したときに該当しますから、実際にいまだ5年を超えて働いていないときでも、「5年を超える労働契約を結んだ時点」で無期転換申込権が発生します。図表の①の更新がそれです。この契約期間中②の申込日ができますが、無期転換が行われるのは、現在結んでいる5年を超える有期労働契約が満了した日の翌日付ですから、同図の場合には、次の3年の契約期間満了の翌日の7年目の初日が実際の就労日となります。つまり、先日付の就労開始日とする無期労働契約の成立となりますので、採用内定契約と類似です。

倒使用者は「承諾したものとみなす」とはこの無期転換申込権は、該当する労働者が無期労働契約の締結の申込をしたときは、使用者は当該申込を承諾したものとみなすとされ、「現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものであること。」(通達)とされています。労働者からこの申込みがあると、使用者が承諾したものと法律でみなされてしまい、使用者に裁量の余地はなく、無期契約を申し込んだ当該労働者と使用者との間に「期間の定めのない労働契約」として成立するのです。そこで、このような労働者の一方的な申込みによって無期労働契約が成立するという法律関係ですから、一方的行為によって法律関係を創設するものであるため、このような権利は形成権ではないかとの説があります。

しかし、形成権とは、「権利者の一方的な意思表示により一定の法律関係を生じさせる権利」(有斐閣『法律用語事典』)とされ、一方的行為により一定の法律関係の変動、すなわち、法律関係の発生・変更・消滅を生ぜしめうるものでありますが、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(労契法第6条)という合意を成立要件としますから、一方的な意思表示によって成立するものではありません。今回の法改正でも、この原則は変更しておらず、新しい無期労働契約も合意を契約の成立要件とする前提は変更しておりません。

そこで、条文上もこの法律上の原則を貫いて、法律上は労働者が、「労働契約の締結の申込みをしたとき」に、これを「使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」(みなすとは、A(ある事柄や物等と性質の異なるB(他の事柄や物等)を一定の法律関係について同一のものとして、Aについて生ずる法律効果と同一の法律効果をBについて生じさせること。)(同前書)とされ、申込みと承諾という基本的な契約パターンは変更していません。したがって、この場合には法律上、使用者の承諾という法律行為はないが、承認したものと同一の効果を法律によって発生させる。)という承諾の「擬制」を生じ、労働契約成立という法律効果が生ずることとなるのです。