2013年4月1日月曜日

大事な写真

しばらくして行ってみると、若葉はすっかり出そろい、大きくなった分だけ風を受けやすいのか、縦・横・斜めに揺れてはテングリ返りしています。前回の発見があったので、速いシャッターを切らず、自由に遊ぶ姿を、ゆっくりしたシャッタースピードで撮ってやると、嬉々として風と戯れる音まで聞こえてきそうな写真が撮れました。自己満足なだけのブレブレの写真ですが、額に入れて自室に飾っています。

秋も深まったある朝、同じ雑木林を訪ねてみました。緑一色だった林は、いつの間にか赤や黄色、それに紫まで加わって、低い太陽が逆光で青空に葉を透かしています。数枚写したあと、今度はスローシャッターで色を重ね合わせてみたべなりました。1/15から1/4秒までスピードの段階を変え、カメラを横に振って撮ってみました。

現像の上がったフィルムを見ると、高速で走る列車から見た風景のようです。全体が横に流れただけのコマもありますが、ルーペでよく見ていくと、幾つもの色が重なり、錦の模様を縫い込んだ刺繍のように写っているものもあります。こいつは面白い! これは新しい風景写真を撮る上でのヒントになるのではと、一人で悦に入ったものです。こういう撮り方をしたものは、ちょうど焼物の窯変と同じで、現像が上がってくるまで仕上がりはまったく予測がつきません。多少のフィルムの無駄遣いにはなりますが、こうやって遊んでみるのも、写真の楽しさの一つではないでしょうか。

大事な写真なのに、うっかり大オーバーのポジになってしまい、脂汗を流したことは何度もあります。露出オーバーで真っ白になったポジは、もう絶対に助かりません。しかし、真っ白になってしまったポジにも{何がしかのヒントは隠されているものです。化粧品メーカーの広告写真では、眉墨や口紅など個々の製品を強調するため、その部分以外の色を飛ばして真っ白にしている写真があります。

これを逆手にとって、わざと明るい白壁の前にガールフレンドを立たせ、思いきりきつい目線でカメラを睨んでもらいます。露出は二絞りでも三絞りでも、お好みでやってください。どうせ大失敗作を撮るのです。結果は美白の女王も真っ青の、大芸術写真。ガールフレンドの隠れた美しさを引き出す、最後の奥の手として使えるかもしれません。

失敗を実作に生かす例をいくつか紹介してきましたが、要するに、当初は失敗と思った写真でも、使い方、見方、考え方しだいでは、失敗作でなくなることもあるということです。もっとも、こうした失敗が起こるのも、絞りからシャッタースピード、ピント合わせまで自分で決めるカメラならばこそで、すべてがオートマティックの、いわゆる全自動カメラに頼っていてはできない芸当だともいえます。そう考えると、一見、便利この上ない全自動カメラも、ある意味では、適正露出でしか写せない、機能が狭くて不便なカメラだともいえそうです。