2012年9月26日水曜日

職場のシステムの変化

いわば庶民の職人的な気質は本人には自覚されず、むしろ、この気質を最も明瞭に評価し活用してきたのは日本の企業だったのです。一九六〇年代の後半から日本の企業は職場に品質管理のための小サークルを組織し製品を改善するための提案制度や先輩の熟練や知識を学習やコミュニケーションによって伝達するシステムを定着させました。人々は少しでも優れた提案や改善や欠点のなさを競い合い、ひとり一人が職人的な気質を発揮して生産性を向上させました。

ここでは日本人の職人気質は、個人や家族の生活の中で自分たちの文化的な伝統を自覚して、より意欲的に生活のなかで文化性の高さを求めるよりも、むしろ職場における仕事そのものを誠実に責任をもって行う方向に向けられてきました。

職場のなかが、まだ「温かな人間関係」を残しうるほどに小規模で、技術の変化がゆるやかなうちは「仕事がいきがい」という職人的な気持を一人ひとりが持ち続けることもできましょう。また、職場での昇進競争がそれほど激しくなくて上司や同僚の間に温かな信頼関係があり、「人間的なコミュニケーション」が残っている間は、たとえ「仕事人間」であっても人間としての誇りをもつことができます。

しかし、生産やビジネスの規模が大きくなり、競争が国際的な規模で展開され、大規模な組織を維持するには「生残り」をかけた技術開発や新システムの導入をやらざるをえなくなってきますと職場のなかも「生残り」をかけた生存競争に巻き込まれ、温かい人間関係よりも、「冷たい現金勘定」が支配的となってきます。

職場のシステムの変化とともに二年で職場を替り、単身赴任も当たり前で、職人的な熟練よりも新しい職場への高い適応能力が評価されるようになってきます。大企業と中小企業との関係も「信頼のおける長いおつきあい」よりも時間通りに必要な製品を必要な量だけ正確に納入できるかどうか」というジャストーインータイムの能力だけが評価されて、蓄積された熟練の力量は次第に評価されなくなります。