2012年7月2日月曜日

状況証拠の積み重ねによる立証

和歌山毒物カレー事件で、林真須美被告(47)に対する21日の最高裁判決は、検察側の状況証拠の積み重ねによる立証について有罪認定のレベルに達していると判断した。今後の司法判断に影響を与える可能性もある。だが裁判員制度の模擬裁判では、状況証拠だけの事件で4割強が「無罪」に。制度開始に向け、検察、弁護側共に新たな対応が求められそうだ。【銭場裕司、北村和巳、伊藤一郎】

「難しい事件だったが、詳細な立証が認められた」。判決を受け法務・検察幹部は安堵(あんど)の表情を見せた。最高裁が事実認定の理由を細かく説明するのは異例だ。幹部は「全面否認の死刑事案であることを考慮したのではないか」と推測する。

焦点は直接証拠がない中、検察側の立証が認められるかどうかだった。ある検察官は「いろいろな背景をつぶし、『この人以外に犯人はいない』と証明する方法」と解説する。だがジグソーパズルを埋めるような難しさをはらみ、ロス銃撃事件(81年)のように無罪が確定した例もある。

今回集めた状況証拠はまず、大型放射光施設「スプリング8」を使った亜ヒ酸の科学鑑定だ。被告宅などの亜ヒ酸がカレーへの混入物と同じ組成であることを立証。さらに、住民を集めて分刻みの現場状況を再現、最高裁も「混入できたのは被告のみ」と認定した。

白取祐司・北海道大大学院教授(刑事訴訟法)は「ぎりぎりの有罪判決。判決が挙げた証拠は犯人性を示すには弱い」と話す。ロス事件を担当した弘中惇一郎弁護士は「過去に保険金詐欺をしていた夫妻の行動パターンと、状況証拠を組み合わせてできた全体像にずれがある。有罪認定のハードルが低くなるのではないか」と懸念する。

元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(刑事法)は「質の良い状況証拠を積み重ねて立証すれば、十分に有罪判断できることを示した。重大事件で動機が、犯罪の成否や量刑を左右しないことも明確にした」と評価した。